彼の料理人としてのキャリアはとても華やかなものだが、その最大の要因となったのは、ホテル王セザール・リッツとの出会いであった。このコンビはまずロンドンのサヴォイホテルの再建にその手腕を発揮し、続いてローマのグランドホテル、パリのリッツ、ロンドンのカールトンを開業させる。そのどれもが今だに一流の名をとどめているのは、彼らの経営能力の高さによるところであろう。
このエスコフィエの料理の考え方は従来の調理法を単純化、簡略化し、そこから新しい料理を開発していくというものであった。料理の本質を見極め、本当に大切なものだけを取り出して料理を構築していったのである。
『ル・ギッド・キュリネール』という料理書がある。これはエスコフィエがフィレアス・ジルベール、エミール・フェテュの協力を得て、1902年に出版した本だが、その内容は今だ輝きを失わず、料理人のバイブルといわれているものだ。この中で彼は料理を体系化し、その組み合わせによって多彩な料理を生み出している。
さらに料理人の地位向上やその環境の改善などにも積極的に関わり、料理人としてのフィールドを越えて活躍したことも忘れてはならない彼の功績である。